193 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-04 02:36:23 ID:???

わ月を日
ふう、こうやって落ち着いて机なんかに向かえる日が再び来るとは
夢にも思っていなかったわ。
あの事件、後にはサードインパクトと呼ばれるであろう、「惨事」から
もう三ヶ月が経とうとしている。
復興は急ピッチで進んでいる、とは言っても状況が状況だから、
当然、元の生活なんて望むことはできはしない。
それでも、この世界に戻って来れたみんなは、それぞれ頑張っている。
この間、私の周りにも色々な事が起こったわ。
これから私は、それらの出来事を綴っていこうと思う。
これまでの、そしてこれからの日記の間に出来てしまった空白を埋めるために。
これを読んでいるであろう未来のアタシ!
この日記は、将来出版されるであろう「惣流アスカ自伝」の
資料と成るべくして書かれてるんだからね!
決して想い出に残そうとか、浸ろうとか、そんなんじゃないんだから。
勘違いして遠い目とかしてんじゃないわよ、ふん。



こんなネタじゃダメ?




194 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[と言うかむしろ歓迎sage] 投稿日:2006-06-04 07:20:09 ID:???

問題無い。
と言うか練習スレなんで御随意に




195 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-04 23:56:07 ID:???

あ月い日
気がつくと私は、崩れかけた廃屋の、壊れかけたベッドに寝かされていた。
屋根もない家に射し込む太陽の光からすると、昼過ぎあたりであろうか。
ふと横を見ると、そこにはシンジが寝かされている。
えーっと、事情が飲み込めないんですけど・・・
記憶にあるのは、確か、シンジが泣きながら私の首を絞めて・・・
シンジはその後、まるで憑き物が落ちたようにグッタリと気を失って、
それを見て私は、「このまま二人とも、氏ぬのかな」とか思って、思って・・・
ダメだ。私もそこで意識が飛んでるわ。
んで、何でこんな所にいるのかしら?
状況が把握できないままボーッとしていると、外に人の気配がするのに気付いた。
もし、戦自の隊員だったりしたらヤバいかなあ、なんてちょっと不安になったけど
ボロ小屋に入ってきた人影の第一声は
「あっら〜、アスカ、やっとお目覚め?」
って、この声、ミサトの声だ!






196 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-05 00:00:44 ID:???

なんか、私とシンジ以外にも人が存在している事が、そんなの今まで当たり前だった
はずなのに、妙に嬉しく感じられた。おまけに、赤木博士とマヤさんも一緒だった。
「ミサトぉ、生きてたの♪」
「んー、なんで生きてんのか、私にもちょっちワカんないんだけどねぇ。
 ま、神様のサービスサービスぅってトコかしらん。」
相変わらず軽いノリをして見せるミサトに、すごく安心できた。
ミサト達が私たちをここまで運んだんだ、感謝、感謝、とか思ってたんだけど
次の瞬間、ミサトの瞳に邪悪な光が宿っていた。
ミサトは真顔でしれっと言ってみせた。
「アスカ、アンタ達が倒れてるのを見つけたとき、アンタの上にシンちゃんが
 乗りかかってたのよねー。マジ話、アンタ達、どこまでいっちゃってるのん?」
マヤさんは少し顔を赤くしながら続いた。
「ホント、今時の子供ってマセてますよねー、先輩。」
「あらマヤ、あなたのことだから、「不潔」とか言い出すのかと思ったわ。」
「アスカとシンジ君なら初々しいって感じですぅ。」
あのー、皆さん好き勝手に話を進めちゃってるんですけど・・・
反論の余地は、あり過ぎる程あるんだけど、そこまでムキになれるだけの
元気が、今の私には、無かった。でも、心の底からこれだけは思った。
「 ミ サ ト だ け は 溶 け て れ ば よ か っ た の に 」






197 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-06 01:26:23 ID:???

あ月う日
一日経って、体力が回復してきたのか、私には「生きる意欲」みたいなものが
沸いてきた。「氏ぬのはイヤ」ではなくてもっと素直に「生きたい」って。
これまで私は、周りの人に自分を認めさせることに躍起になってきた。
でも、私のことを心配してくれて、助けてくれて、守ってくれる、そういう人が
いるって事が、私が認められてる、そういう事なんじゃないかって思えたから。
私がここに寝かされていた事実が、その証明なんじゃないかって。
「ミサト、おはよ」
ミサトは、部屋の隅でどこかから漁ってきたのであろう本を読んでいた。
多分、読書なんてミサトの趣味とはかけ離れていると思うけど、
こんな状態での時間潰しにはそう贅沢もいえないのだろう。
ミサトはどう自分をイメージしてこの世界に戻ってこれたのだろう?
私は顔にも態度にも出してないつもりだったんだけど、ミサトは、
そんな私の疑問を察したのか、語りだした。
「撃たれたのよ、戦自に。補完が始まる前にね。私はその傷がもとで氏ぬんだと
 思ってたわ。薄れゆく意識の中で、「彼」に声を掛けられたような気がして、
 これが走馬灯ってヤツかって。もう、氏ぬモンだって覚悟しちゃってたから
 割と冷静だったわね。その瞬間、私の中に他の誰かの意識が流れ込んでくる感覚がして・・・」
それで溶けちゃったんだあ。ってそんな軽い相槌を打てないくらいに
そのときのミサトは真剣な顔つきだった。それはこれまでに見たことの無い表情で、
多分、この顔を知ってるのは、ミサトの言う「彼」ぐらいなんだろうなって感じた。






198 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-06 01:31:28 ID:???

「でも、その時に感じたの。私は「彼」の遺してくれた真実への道を
 往き切れないまま終わっちゃうんだなあって。多分、私が私であることの
 イメージって、それに対する反発から生まれたんだと思う。
 私は「彼」の求めた真実に到達しなければいけないんだ、そんな気持ちが。
 ・・・まあ、私のお話はこんなところでオシマイかな。」
ミサトってズボラでガサツっていうのが基本だけど、時々ドキッとするような
繊細さと鋭さをみせる事がある。それは多分私なんかよりも多くのものを
人生で積み重ねてきた、いわゆる「年輪」ってヤツなのかもしれない。
今のミサトは、これまでよりもずっとずっと頼もしい「お姉さん」に見える。
「ミサト、その・・・撃たれた傷は大丈夫なの?」
ミサトの表情がそれまでとは一転、納得いかない疑問を抱えた顔になった。
「・・・それなんだけどねえ・・・気付いたら、傷跡はあるんだけど・・・
 塞がっちゃってるのよねえ。リツコもそうだって言ってたから
 これ、外傷を負ってた人は皆そうみたいよ。ま、私にとっちゃ
 「人類補完計画」というより「人体補完計画」だったって事かしらん♪」
いつもの能天気なミサトに戻っていた。
ミサトは今回きっと、これまで背負ってきたものの内のひとつから解放された。
これからはその分もうひとつ大きなものを背負って生きていく。
葛城ミサトが生きてる事実が、加持リョウジが存在した証明になるのだから。






202 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-15 01:39:52 ID:???

あ月う日
今朝も食事は、近くの避難所跡から漁ってきた非常食。
ミサトは毎日コレでも全然平気そうだけど、育ち盛りの私としては
もっと栄養のありそうなものを食べたい。
かつての調理係はこれまでずっと張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れたのか、
一日のほとんどを寝てすごしている。「寝て」といって、ただゴロゴロしているのではなく、
本当に眠りに落ちているのだ。得意の狸寝入りではなさそうだ。
今まで私達は家事のほとんどをアイツに任せっきりにしてきたし、アイツも
それをさも当然のようにこなしていた。頼りないヤツではあるけれど、
ここまでだらけきったアイツを見るのは初めてかもしれない。
「アスカ、お昼を食べたら、本部跡地に行ってみるわよ。
 もう、それくらいの体力は回復してるでしょ?」
確かにいつまでもここで寝ている訳にも行かないし、生活に新たな展開が望めそうなのは
明らかに向こうだと思うので二つ返事で了解する。
ミサトの話によると、私たちが寝ている間に既に日向さんと青葉さんが中心となって
生還したネルフ職員達が本部周辺の調査を開始しているようだ。
ミサトに頼まれ、シンジを起こしにいく。私に頼む理由が、
「自分は起こされるほう専門で、人を起こしたことが無い。寝てる人を起こすのは心が痛む。」
というのがミサトらしいというか、人として、女として終わっちゃってるとすら感じさせる。
「バーカシンジッ!!」
7回目の呼びかけでシンジはようやく上体を起こすと、眠そうな目をこすりながら
「なーんだ、アスカか。もうちょっと寝かせ・・・」
と、再び布団(というか布)に包まってしまった。この男、完全にダラケ切ってるわね。
「なーに甘えてんの!もうっ、さっさと起きなさいよっ!」
シンジの包まっている布を引き剥がす実力行使に出た。この瞬間、何故か
「今が昼近い時間でよかった」と感じた。仕方ないとは言わせないわ、ふふん。






203 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-15 01:43:00 ID:???

一旦、目を覚ましてしまえば、これまでとそう変わりないシンジがそこにはいた。
まあ、見た目からしてそんな急激に変わるなんて事はまずないんだけど。
それでも、今回の件が心理的に何らかの影響を与えているかもしれない、
大袈裟かもしれないけど、そういう覚悟はしていた。
本部跡までを三人で歩く。思えば本部内以外をこうして三人で歩くのは初めてかもしれない。
会話もなく淡々と歩き続けるなか、シンジが自信無さげな声で話しかけてきた。
「あの・・・その、ア、アスカ・・・元気?」
「はあ?何言ってんの?アタシが元気なく見える?」
「あ、いや、元気そうなアスカを見るの、久しぶりだな・・・って。」
そっか。ここ最近シンジが見ていた私の姿って、自信を失くしてるところとか、
病院で寝ているところばっかりだったんだ。
「僕はいつも、何かにつけて父さんや他の人のせいにして嫌な事から逃げてばかりいて、
 肝心な時には、アスカも、綾波も、助けてあげられなくて・・・
 今だって、こうして元気なアスカにまた会えたから、少しはほっとしたけど・・・
 僕って、ネルフに必要だったのかな?そこに居た意味あったのかな・・・」






204 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-15 01:45:00 ID:???

相変わらずのバカシンジ。そんな事言っても私を苛立たせるだけだってわかんないのかしら。
「アンタねえ、確かに色々辛い目にあって逃げ出したのもアンタかもしれないけど
 例えば本部の危機を見て戦う決意をしたのも確かにアンタだし、アタシやファーストを
 助けたい気持ちになったのもアンタなのよ?いいじゃない、強さと弱さ、
 一人の人間の中にいろんな面があったって。」
まったく、起きたと思ったら早々に慰めが必要なんて赤ん坊以下だわ。
それでも腑に落ちない顔を浮かべてるシンジに、私は思わず言ってしまった。
「アタシだってねえ、アンタと一緒に戦ってて、アンタが頼りになると思ったこともあるし、
 情けないと思ったこともある。大ッ嫌いだと思ったこともあるし、す、す、少ーしだけ
 す、好きだと思ったことも・・・ある。た、戦いにおいて、よ。
 でもそれは、全部アンタ一人に対してアタシが感じた本当のことなんだから!」
シンジの顔に少しだけ笑みが戻った。でも、それは少し寂しげな笑みだった。
「少しだけ、好き・・・か。」
おーい、アタシの一番恥ずかしい言葉だけ捉まえて、今までの話はどこいっちゃったのー・・・
もう構ってらんないわ。私はそれまでシンジに合わせていた歩みを早めた。
私の後方に一人になったシンジがポツリと呟くのが聞こえた。
「僕の中のいろんな面・・・あれも、これも、全部本当の僕、なんだ。」






206 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-16 00:48:42 ID:???

あ月え日
ネルフ本部跡地は、私の想像よりはるかに原形を留めていた。
と言うより、私が最悪の下の下を想像してたから、それより遥かにマシだったって事だけど。
昨日はバカシンジのせいで、ここまで歩いた体力的な消耗以上に疲れを感じて
調査メンバーへの挨拶もそこそこに、以前、私の部屋として用意されていた部屋に
潜り込むと、早々と寝てしまった。
翌朝(つまり、今朝)、目が覚めると、妙にのどが渇いている。
本部内の非常食なんてどこに備蓄してあるのかわからないから、藁をも縋る思いで
自販機コーナーに行ってみた。いざとなったら破壊も辞さないつもりでよ。
ところが、拍子抜けすることに自販機はおろか、冷水機まで動いている。
ってか、よくよく考えてみたら、照明もちゃんと点いてるじゃん。
自販機前のベンチにはミサトと、一足先にこっちに来ていた赤木博士、マヤさんが
談笑している。
「あらアスカ、体はもう大丈夫?」
それどころじゃないでしょ、これは一体どうなってるの、と赤木博士に問いただすと
「最低限のライフラインだけは確保したわ。技術部の総力を挙げてね。
 もともとここは自給自足できるように造られてるから、この程度なら間にあうわ。
 もっとも全体の回復にはもう少し時間がかかりそうだけど。」
へえ、そうなんですか。施設外の人には悪いけど恵まれてるわね、ここ。
復旧を目指して、今は通路に点在する硬化ベークライトの完全撤去が目標だそうだ。
「目標だそうだ、じゃなくて、アンタ達もやんのよ!」
・・・やっぱり?作戦部長の命令じゃ仕方が無いか。んで、人力でですか?
ええい、仕方ないついでだ、行くわよ、シンジ。






207 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-16 00:55:24 ID:???

「ああー、エヴァがあればこんな重労働しなくてもアッという間なのにぃ。」
無いものねだりと知りつつも、そんな事を思ってしまう。
「かえってこれをエヴァで除去するのって難しいんじゃないのかな・・・。」
「要領悪いわね、シールでも剥すようにやればいいのよ。」
「・・・弐号機って、爪あるの?」
・・・やっぱりバカは治ってない、か。ツッコミ所が違うでしょ!
エヴァの指を突っ込んだら、それだけでこんな通路、使い物にならなくなるわ。
でも、ちょっと面白そうだから、この話題を続けてみる。
「ま、アンタには無理かもしれないけど、アタシと弐号機がシンクロすれば、
 こんな作業、お茶の子サイサイよ。」
その言葉を聞いたシンジがちょっと微笑んだ。
「そっか。アスカ、結局最後には弐号機に乗る事に自信が持てたんだね。」
くは、シンジにそんな事を言われてしまうとは、何たる不覚。






208 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-16 00:57:22 ID:???

少し鬱に入り気味になっていると、シンジが切り出してきた。
「アスカ、エヴァの中で、誰かに・・・逢わなかった?」
!!!。ちょっとビクッときてしまった。
「・・・そっか、シンジも誰かに逢ってたんだ。」
きっと、シンジは私なんかよりも早くにその「誰か」に逢ってたんだと思う。
「心を開かなければエヴァは動かない」そんな、今では当然のようにさえ感じる事が、
シンジには自然に出来ていた。少なくとも、人に対しては構えていても
エヴァに対しては構えることなく、素直な気持ちで乗っていた。きっとそうだ。
私はそれに気付けなかった分、エヴァの本当の力を引き出すのが遅れてしまった・・・。
それっきりで会話が途絶えた。沈黙の中、作業だけが続く。
でもそれは重苦しい沈黙ではなく、私にとっては、不意に心の痞えが取れた気分。
私はどうしても一言、言っておきたくなって沈黙を破った。
「私以上に、弐号機とシンクロできる人なんて、絶対いないんだから!」
胸を張る私に、シンジは満面の笑みで応えた。
「ボクも、そう思うよ。でも、ボクだって、初号機に乗ればアスカにだって負けない。」
それは、多分、いや、間違いなく両方ともホントの事だと思う。






210 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-18 02:26:52 ID:???

あ月お日
うう、カラダがダルい・・・。
ネルフ本部内の後片付けは、昨日の「総員第一種清掃配置」の発令により
完遂された。最初は渋々復命していた私も、シンジとの会話で心のもやが晴れたのか
気分が高揚し、思わず張り切りすぎたようだ。
その結果が、肩を中心とした筋肉痛。ネルフのために頑張った挙句、この仕打ちか・・・。
やっぱり、か弱い女の子に硬化ベークライトの除去なんて過酷な労働だったのね。
でも、翌日筋肉痛になるのは代謝が良ければこそ。
ミサトなんかは三日後くらいに反動がくるに違いない。
その時は思いっきり笑ってやろう。
昼過ぎまでゴロゴロしている。体は痛いけど退屈には勝てないので
ちょっと施設内を散歩しに出かける。
とはいっても、施設内に真新しい物があるわけでもなく、
話し相手を探して自販機コーナーに辿り着くのが関の山。
丁度良くシンジが雑誌を読んでくつろいでいる。
今日の私は気だるさが表に出ているらしく、顔を合わすなり
「あれ、アスカ調子悪いの?ひょっとして・・・二日目?」
なんて言われてしまった。へえ、シンちゃんも言うようになったじゃない。
というわけでシンジの左頬に、私の右手の跡をつけてやった
・・・まではよかったが、今の私にはこの程度の動きでも激痛が走る。
苦悶の表情を浮かべる私を、シンジは今叩かれたことも忘れたように心配げに見ている。
「ア、アスカ・・・大丈夫?」
「うう、筋肉痛になったみたいで、激しい動きをすると痛いのよう・・・。」
「アスカ・・・全力で叩いたんだね・・・。」






211 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-18 02:28:35 ID:???

シンジが、読んでいた雑誌を開き私に見せる。
「丁度、こんなの医務室で見つけて読んでたんだけど。」
なになに?「気の流れで体を癒す」?気功・・・東洋医学者はヘンなこと考えんのねえ。
でもアンタが治療できるわけじゃないんでしょ、と突っ返すと、
物は試し、なんてめずらしく積極的。私に触りたいだけじゃないでしょうね?
場所を元・パイロット控え室に移し、騙されたと思って治療されてみる。
さっきの雑誌を見ながらシンジが私に指示を出す。
目を閉じて、体の力を抜いて、息を大きく吸って・・・。
シンジの手が私の肩に触れる・・・って、この姿勢って、私の唇を奪う気じゃ無いでしょうね?
忘れてた、コイツは寝ている私にキスしようとするような奴だったんだ。
やっぱり騙されたか、なんて自責の念に駆られていると「いくよ」って、えっ、どうしよう。
なんて、シンジにそんな甲斐性があるはずもないか。
「えい!」とシンジが気を注いだのであろう瞬間、私の体は
部屋の壁まで飛ばされていた。これが・・・気の力なの?
私よりも当のシンジの方が目を丸くして驚いている。
「ははは・・・ATフィールド全開!・・・なんちて・・・。」
気まずそうにつまらない事を言っているが、なんかスゴイ!凄い事は認める!
これもシンジの隠れた才能の一つなのかしら?開花の瞬間に立ち会った気分だわ。
私の体には筋肉痛に「打撲傷」が重なったけどね。お、怒ってないわよ、別に・・・。
コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル・・・・・






214 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-19 11:46:46 ID:???

あ月か日
痛い。今度は昨日打った腰が痛い。もう私の体とは思えない。
とはいっても、これまでエヴァに乗っていて味わった体を引き裂かれるような
幻痛に比べれば、五体が無事な状態での痛みなだけマシかもしれない。
普通は両腕を付け根から切断される痛みなんて経験しないものね。
素人の気功なんて怪しげな話に乗った私もバカだけど、
シンジだって親切心のつもりでやってくれたんだろうから責める訳にも行かない。
でも、このやり場の無い苛立ちはどこにぶつければいいの。
・・・そういや、今日当たり筋肉痛の発症してそうな人がいるわね、ふふふ。
というわけでミサトの執務室へと向かう。
この部屋のドアは戦自侵攻の際破壊され、まだ修理の手が回っていない。
開けっぴろげな性格のミサトは、「邪魔だから」とその扉を撤去してしまった為、
通路から中が丸見えだ。部屋の中には彼女と赤木博士の姿が見える。
「ミーサトっ♪」
二人の話の中に入っていく。私はそれとなく二人の体調を探るような話に
持っていったが、特に疲弊しているような様子は伺えなかった。
・・・そうですよね、作戦部長自ら作業なんて行いませんよね、ハイ。






215 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-19 11:48:19 ID:???

それでもミサトの口から「慢性的な肩こり」という言葉を引き出し、
シンジに気功で治して貰うよう勧めると、話に食いついてきたので
早速シンジを連れに行く。部屋の隅まで飛ばされて驚くミサトの顔が早く見たいわ。
で、シンジを見つけてミサトの部屋まで戻り、昨日私にやったように
ミサトにやってあげるように命令する。拒否は許さないわ。
ところが、私の期待とは裏腹に、シンジの気功が発揮される事は無かった。
それどころか、上手くいかずにおたおたするシンジを
「いいわよん、普通に、肩揉んでくれれば。」
なんていいように使われてしまう始末。ク・クヤシイ・・・。
「ちょっとシンジ!何やってんのよう・・・。」
思わず矛先をシンジに向けてしまった私をなだめるようにミサトが言う。
「いいのいいの。修行者でもないのにそんな簡単に『気』なんて操れるもんじゃないわ。」
「でも、昨日は本当に・・・」
「いいんだよ、アスカ。昨日はまぐれで上手くいっただけなんだよ、きっと。」
「だってシンジ・・・悔しいじゃない・・・。」
私達のやり取りを眺めていた赤木博士が微笑ましげに呟いた。
「アンタ達、いいコンビになったわね・・・まるで、夫婦みたいよ。」
そういう冷やかしにはもう慣れているつもりだったけど、思わず沈黙してしまった。






216 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-19 11:50:31 ID:???

しばしの後、赤木博士とシンジはそれぞれ戻っていき、部屋には私とミサトが残された。
「アスカとシンちゃんのやり取り、本当に見てて飽きないわね。
 リツコも言ってたけど、本当にいいコンビになったわ。」
ミサトの目は「やさしいお姉さん」になっていた。そして、ちょっと誇らしげに続けた。
「私もリツコに言われたことあるのよ、友達の結婚式の席で、
 『あんた達、夫婦みたいよ』って。もちろん加持とね。」
今までの私だったら、そんな話を聞いただけで、いちいちカッカしていたと思うけど、
今の私は、自分でも不思議なくらい冷静に、一つの『昔話』くらいの感覚で聞いている。
むしろ、ミサトにとって私は、そんな『昔話』を語れる存在として
認められているんだな、って感じられるぐらいだ。
「その時は、頑なに否定してたけど、今思えば、何でそのとき素直になれなかったのか、
 『失って初めて大切なものに気付く』なんて人の話を聞くと、馬鹿だなって
 思ってたのに、自分がその『馬鹿』だったなって、ホントに後悔している。」
ミサトは、アスカも素直に生きた方がいいわよ、なんて教訓語っちゃってるけど、
もしかしてシンジに対する私のこと言ってるつもり?
残念ながら私には、そんな気は全然ありませんよーだ!
・・・って『そんな気』が無いのはホントだと・・・思う。けど『全然』ってのは素直じゃない
・・・かも。うう、『全然』は取り消し!でもそれ以上は譲れないんだから!
って、何考えてんだ、私。バッカみたい。
「リツコと話してたの。『お互い最後に一人にはなりたくないわね』って。
 どうやら最後の一人は私で決まりみたいね・・・。」
・・・このままでは空気が重くなってしまう・・・ええい!
「なーに言ってんのミサト、そもそも加持さんはアタシのモンなんだから!」
ミサトに鼻で笑われた。どうやらミサトにとって私は、オンナとしてはまだまだ
認められてないみたいだ・・・。クヤシイ!!






219 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-21 01:29:00 ID:???

あ月き日
昨日、冬月副司令の身柄が確保されたようだ。
徐々にではあるが、この世界にも人が戻りつつある。
最終的にどれだけの人が還って来る事が出来るのか、予想も付かない。
でも知り合い、って言うか、こう言ったら副司令は怒るかもしれないけど
ともに戦った『仲間』がまた一人帰還を果たした事は、やっぱり嬉しい。
そして今日、サードインパクト後、初となる招集がかかった。
今のネルフが組織として何らかの機能を果たしているわけではないが、
今後についての事前策が必要なのだろう。少なくともここにいる人たちは、
一般世界から隔離された、と言ってもいいであろうジオフロント内で
少しでも未来が明るくなるように、必氏で頑張っているんだから、
私も、たとえ今後どうなるとしても、今はここで皆と頑張りたいと思う。
副司令が集合場所として選んだのは、碇司令の部屋だった。
発令所とMAGIが現在最優先で復旧作業中なので、作業の邪魔になるのを
避けているんだと思う。発令所が復旧中ということで、
召集は日向さんと青葉さんが各人に口頭で伝えて回った。
これが先進技術の粋を凝らして設計されたネルフ本部とは・・・お疲れ様。
司令室に向かってとぼとぼと歩くシンジをつかまえる。
別に、シンジじゃなくても良かったのよ、ただ、司令室なんて入った事無かったから
ちょっと一人じゃ心細いかな、なんて。一人よりはマシって程度なんだから!
そういえばシンジは今、一体どんな気持ちで司令室に向かっているのだろう?
憎かった父親、嫌いだった父親、認めてほしかった父親・・・。
そんな父親が長く過ごしていた部屋。それから自分が逃げ出した部屋。
今はまだここにいない、でもいつか帰ってくるかもしれない碇司令に
シンジはどうやって向かい合っていくつもりなんだろう・・・。






220 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-21 01:31:54 ID:???

そんな事を考えているうちに目的地に到着。既に主だった発令所メンバーは揃っている。
まだ到着していない副司令、それに碇司令、そしてファーストの姿が見えないぐらい。
いつか、皆が揃う日は来るのかな。そんな感傷に浸ってしまった。
自分でも不思議なくらいファーストの事が気になってしまう。
人から聞いた事を含め、いろんなファーストの姿が脳裏をよぎる。
人に対して素っ気無かった彼女。盾となってシンジを護った彼女。
付き合い悪かった彼女。マトリエル戦でディフェンスを買って出ようとした彼女。
チャーシュー抜きな彼女。ディラックの海に飲み込まれたシンジを気遣う彼女。
爆弾抱えて使徒に特攻する彼女。不調の私に助言をくれた彼女。
ロンギヌスの槍で私を助けてくれた彼女。自爆してまでシンジを助けた彼女。
もしもその時、「何かをしてくれた」と素直に思うことが出来ていれば、
ファーストとはもっといい関係が築けたはずなのに、私にはそれが出来なかった。
もっとも、今だからそう思えるんだけど、それに気付いた時には彼女は消えてしまった。
遅れて、副司令が部屋に入ってきた。揃った面々を一通り見渡して言った。
「碇の奴は、まだ戻ってきておらんのか・・・。」
副司令の口ぶりでは、碇司令がいずれ戻ってくる事を確信しているようだ。
シンジが副司令に父は戻ってこれるのかと尋ねている。副司令は落ち着いて答える。
「必ず戻って来るさ、碇は。奴の目的は果たせたはずだからな。
 次にまた何かを企んで、戻ってくる。そういう奴だよ、アイツは。」
碇司令が次に何を言い出すか、楽しみでたまらない、副司令の顔はそういう表情をしている。
「君たちにはたまらんだろうが、奴は一旦何かを始めると、周りが見えなくなる
 ところがある。まるで子供だよ。ユイ君が言っていたよ、
 『あの人はカワイイ人なんですよ』と。私も最初は碇の事を好きになれなかったが、
 それでも一緒にいると、なかなかどうして、面白い男でな・・・。」
それで、碇司令の目的って何だったんだろう。私が聞くまでも無くシンジが尋ねている。
「それは『ユイ君と逢う事』だと思うぞ。まあ、間違いないだろう。」






221 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-21 01:34:48 ID:???

「うわぁぁぁぁぁっ!」
突然、部屋を揺れが襲った。地震でも起きたのかしら?
脆くなっている天井から埃が舞い落ちる。
と、同時に部屋の奥の壁の一部が崩れ、そこには一つの扉が姿を現した。
「やれやれ、見つかってしまったか。碇の、隠し部屋の入り口だ。
 どうだね、入ってみるか?碇には何か言われそうだが、私は一向に構わんよ。」
副司令の勧めに、最初は皆、躊躇していたが、意を決したように
シンジが一歩踏み出した。それを見て副司令が先導する。私達は後に続く。
扉の向こうの細い通路を抜けると、機械に埋め尽くされた部屋に出た。
そして、その部屋を見渡した皆が、ある一点に目を奪われ、固まった。
そこには、LCLで満たされた透明の筒状の機材が二基あって、
そこにはそれぞれ「綾波レイ」のカタチをしたモノが浮かんでいる。
「これは、碇の気持ちなんだよ・・・。」
副司令が、静かに、語り始めた。
「子供が『男だったらシンジ、女だったらレイと名づける』碇はそう決めていたそうだ。
 つまり、綾波『レイ』の名は、碇が自分の娘に送った名前ということさ。
 碇は、補完を進める一方で、レイに人として生きてもらいたい気持ちも
 少なからず持っていたのだろう。ここにある二つの体は我々の体と比べても
 遜色無いだけの仕上りになっている。碇の専門分野でないにもかかわらず
 研究を重ね、これだけのものを創りあげたのだ。全く恐れ入るよ。」






222 :名無しが氏んでも代わりはいるもの[sage] 投稿日:2006-06-21 01:36:59 ID:???

赤木博士が目の色を変えた。
「私も科学者の端くれとして、これだけのものを見過ごすわけにはいきませんわ。
 ぜひとも、この身体に魂を宿らせてみたい。」
うう、赤木博士のマッドな部分が顔を覗かせている。即断即決ってなカンジで
早速、ファーストの身体を一体、実験台の上に寝かせた。
ところが!である。
周りが何かするまでも無く、その身体がムックリと上体を起こしたのだ。
当然、皆、恥も外聞も無く絵に描いたようなバカ面になっている。
私と言えばさっきまでファーストのことを考えていたのもあってか、
多分、この中で一番違和感なく目の前の出来事を捉えられている。
逆に、現実が夢のような事だと気付くと同時に、目が潤んでくる。
そうだよね、ファーストだって私達の所へ帰りたかったんだよ!絶対そうだよ!
私は思わずファーストに駆け寄った。ねえ、本物のファーストだよね?
「あなた・・・気負っていたものが、とれているわ。」
ぐっ、相変わらず冷静に痛いトコを突いてくるわねえ・・・。
「・・・・・なに、泣いてるの?」
くぅぅ、目の潤みに勘付かれたか、クヤシイ・・・。
そして、ファーストは、何かを思い出したかのように、私に、最高の微笑を投げかけた。
その微笑を見た私には、もう、溢れてくるものを抑えることは、できなかった。
悔しいけど嬉しい。私にとって最高の「強敵」が帰ってきたんだから。